撮影依頼の前に知っておきたい3つの質問

──「何を、誰に、どう伝えるか」で写真の価値は決まる。


「プロに撮影を頼みたい」と思った瞬間、
多くの企業がまず気にするのは“撮影日程”や“料金”、“どんなカメラマンか”といった部分です。
もちろんそれも大切ですが、
もっと重要なのは――撮影の前に考えておくべき3つの質問です。

それが「撮る目的」「使う場所」「ターゲット」。

この3つを整理するだけで、撮影の方向性が明確になり、
仕上がった写真の“伝わる力”が何倍にも高まります。
逆にこの3つがあいまいなままでは、
どんなに腕のいいカメラマンでも、満足度の高い写真にはなりません。


1. 撮る目的は何か?──“なぜ撮るのか”が写真を導く

撮影のスタート地点は、「なぜ撮るのか?」です。
多くの企業が“なんとなく必要だから”撮影を行います。
しかし、その“なんとなく”が、最も高くつく失敗の元になります。

たとえば「社員紹介の写真」。
目的が「社風を伝えたい」なのか、「信頼感を与えたい」なのかで、撮り方はまったく変わります。

  • 社風を伝えたい → 自然光・柔らかい笑顔・会話シーン
  • 信頼感を与えたい → ストロボ・正面構図・背景は整理されたオフィス

“何を伝えるために撮るのか”が明確であれば、
その意図に沿ってカメラマンはライティング、レンズ、構図、トーンを選びます。

目的を明確にすることは、
いわば「撮影の羅針盤」を持つこと。

どんなに立派なカメラやスタジオがあっても、
目的を見失えば、写真は迷子になります。


目的の整理方法(実践編)

撮影前の打ち合わせで、ぜひ次の3つを話し合ってください。

  1. 何を伝えたいか(例:安心感・活気・高品質・人柄)
  2. どんな印象を与えたいか(例:信頼・親しみ・勢い・誠実)
  3. どんな行動をしてほしいか(例:採用応募・問い合わせ・購入)

この3つを具体的に書き出すだけで、
写真に“方向性”と“意味”が生まれます。


2. どこで使う写真か?──使い道が決まると、必要な写真が見えてくる

「この写真は、どこで使われるのか?」
ここを明確にしないまま撮影に入ると、
後から「トリミングできない」「解像度が足りない」「トーンが合わない」などの問題が起こります。

使用場所による撮影の違い

  • Webサイト・SNS用
     → 軽快で明るいトーン、余白少なめ。画面越しに伝わる“抜け感”を重視。
  • 採用パンフレットや会社案内
     → 高解像度・印刷向けの色管理。構図は余白を多く取り、文字を配置できるスペースを確保。
  • 展示会パネルや広告ポスター
     → 迫力と明快さが鍵。光と影のコントラストを強め、遠くからでも印象に残る構成。

使用目的を事前に共有すると、
カメラマンは「どんな比率で撮るか」「どの照明機材を持ち込むか」まで最適化できます。

また、Webや印刷では求められる色の再現性が違うため、
同じ写真を両方に使うと、微妙なズレが生じます。
その点を踏まえ、「メイン用途」を明確にしておくと、後工程もスムーズです。


撮影データを“資産化”する考え方

中小企業では、1回の撮影で複数の媒体に使うケースが多くあります。
だからこそ「使う場所」を意識して撮ることで、
写真を“使い捨て”ではなく“資産”に変えることができます。

たとえば、

  • Webで採用写真として使ったものを、後に会社案内のビジュアルに再利用
  • 商品写真をSNS・EC・展示会ポスターに展開

こうした“横展開”を意識すれば、撮影のコストパフォーマンスは格段に上がります。


3. 誰に向けた写真か?──見る人の心を想像する

最後の質問は「誰に向けて撮るのか?」です。
これは、写真の“言葉づかい”を決める最も重要な要素です。

ターゲットを決めずに撮影すると、
どこか中途半端で、誰の心にも届かない写真になってしまいます。

ターゲット別・写真の方向性

  • 学生・求職者向け
     → フレッシュで明るく。自然な笑顔やオフショットを混ぜ、共感を生む構成。
  • 取引先・ビジネス層向け
     → 清潔感と誠実さを軸に。背景を整理し、プロフェッショナルな印象を。
  • 一般消費者・ユーザー向け
     → 商品の“使われる瞬間”を描く。感情が動くシーンを意識。

ターゲットを意識すると、
被写体の表情や姿勢、光の方向、背景の色までが変わります。


ターゲットを共有するコツ

打ち合わせでは「誰に見てもらいたいか」を明確に言語化しましょう。
たとえば、「20代の就活生に“この会社で働きたい”と思ってもらいたい」など、
具体的な人物像(ペルソナ)を想定することが重要です。

カメラマンがそのイメージを共有していれば、
その人物が心惹かれる瞬間を狙ってシャッターを切れます。


撮る前の時間が、撮影の質を決める

撮影というと、多くの人が「カメラを構えてから」をイメージします。
しかし本当に大事なのは、「シャッターを切る前」の時間。

カメラマンと依頼者が目的・使用場所・ターゲットを共有していると、
現場では無駄な迷いがなくなります。
どの構図を選ぶか、どこに光を当てるか、自然と答えが出てくるのです。

この共有時間が短いと、撮影は「ただ撮っただけ」で終わってしまいます。
でも、ほんの10分の打ち合わせで意識が揃うだけで、
出来上がった写真は見違えるほど変わります。


よくある失敗例と、その対策

  1. 「とりあえず撮っておこう」で終わる撮影
     → 対策:使用目的とターゲットを事前に文書化して共有。
  2. Web・印刷・SNSで同じデータを流用してしまう
     → 対策:各媒体の特性を理解し、適正サイズ・トーンで撮り分ける。
  3. ターゲットが不明確なまま、全方位に向けて撮る
     → 対策:最も届けたい相手をひとり設定する。

こうした小さな意識の違いが、撮影の成果を左右します。


まとめ

写真は「見た目」ではなく、「意図」で決まります。

目的・使用場所・ターゲットを整理することは、
“撮影の成功率を上げる最もシンプルな方法”です。

この3つを考えるだけで、
あなたの写真は「ただの記録」から「伝わるメッセージ」に変わる。

カメラマンに任せる前に、
まずはあなた自身がこの3つの質問に答えてみてください。

  • 何のために撮るのか?
  • どこで使うのか?
  • 誰に届けたいのか?

その答えが、写真の方向を決め、あなたの想いを形にしてくれます。


文:洞テツヤ(株式会社フォートオフィスハント)