撮影現場の裏側:スタジオで1枚の広告写真ができるまで

広告写真は、ただ“きれいに撮る”だけでは終わりません。
商品の世界観、ブランドの温度、手触りまで伝えることが使命です。
そのために、スタジオという“光をデザインする空間”で、
1枚の写真を徹底的に作り込みます。

ここでは、1枚の広告写真が生まれるまでの裏側を紹介します。

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① プリプロダクション:世界観を構築する時間
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まずは「何を、どんな印象で見せたいのか」を明確にします。
商品の持つ質感やブランドの個性を理解し、
それをどう“光”で表現するかを考える。

たとえば、
・清潔感:白基調+やわらかい拡散光
・高級感:黒背景+シャープな影
・温かみ:低色温度で包み込むような光
といった具合に、狙う印象によってライティングの思想は変わります。

この段階でラフイメージを共有し、クライアントと方向性を固めておく。
撮影の成功は、この“準備の質”にかかっています。

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② セッティング:光を“描く”という感覚
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スタジオでは光そのものを設計します。
メインライトで形を作り、フィルライトで影を整え、
リムライトで立体感を与える。

光は角度、距離、拡散具合によって無限に変化します。
1灯動かすだけで、商品の印象はまるで別物になる。
だからこそ、スタジオでは「光を描く」という意識が大切です。

商品表面の反射やテクスチャーを見極めながら、
ミリ単位でライトを動かす。
背景のグラデーションを整える。
現場の空気は、常に“静かな戦い”です。

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③ 撮影本番:静寂の中で生まれる瞬間
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撮影が始まると、スタジオは一瞬で張りつめた空気に変わります。
照明の光、商品の角度、レンズの高さ——すべてを見極めて、
「今、この瞬間」が最高だと判断したタイミングでシャッターを切る。

たった1枚を撮るために、何十回も角度を変える。
光を1/4段落とし、反射を整え、影を足す。
その繰り返しの中で、ようやく“伝わる写真”が見えてくる。

現場では無駄な言葉がなくなり、
スタッフ全員の集中が1点に集まる。
静寂の中にある緊張と快感——それが広告写真の真骨頂です。

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④ レタッチと合成:現場の光を“完成形”へ導く
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撮影後の画像処理は、もはや「仕上げ」ではなく「再構築」。
現場で作り込んだ光の意図を壊さず、さらに完成度を高めていく作業です。

まず、色やトーンを整え、商品本来の質感を忠実に再現。
微細なホコリや映り込みを取り除き、
必要に応じて複数のカットを合成します。

たとえば、
・金属の反射を別カットの“ベスト部分”と置き換える
・ピントが浅い部分を合成で補正して奥行きを出す
・商品の表面と背景の露出を分けて管理する
こうした工程を経て、“現場以上にリアルな写真”が生まれます。

つまり、スタジオで作り出した光と、
レタッチ・合成による微調整が融合して、
初めて「完璧に近い1枚」になる。
現代の広告写真は、現場とデジタルの両輪で完成するのです。

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⑤ 納品:写真が“広告”へと変わる瞬間
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最終チェックでは、モニターでトーンの再現性とカラーマッチングを確認。
データが納品され、実際に店頭やWEBでその写真を見た瞬間——
「この光が、誰かの心を動かしている」
そう実感したとき、はじめて“広告写真としての役目”が果たされたと言えます。

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🎯 まとめ:スタジオは“光と編集が交差する場所”
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スタジオでの撮影は、偶然ではなく意図の積み重ね。
光の設計、構図の判断、そして撮影後の画像処理まで、
すべてが「伝える」ための計算でできています。

広告写真とは、
現場のリアルとデジタルの技術が融合した“表現の最前線”。
光を創り、仕上げで完成させる。
その連続の中に、プロの矜持が宿っています。

今日もまた、スタジオの中で、
1mmの光と1ピクセルの色を追いかけています。

文・写真:洞テツヤ(株式会社フォートオフィスハント)